味覚障害で悩まれている人は多く、ある年の学会調査によると、国内で年間24万人が味覚障害で耳鼻咽喉科を受診しています。
とりわけ家事で料理を担当することが多い女性にとって、味覚障害は非常に深刻な問題です。というのも、味覚は食べ物が安全かどうかを見極めるための極めて重要な感覚だからです。
味覚には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5種類があります。酸味は腐敗したものの味であり、苦味を持つ物質も危険なものです。よって甘味に比べて酸味や苦味に対しては敏感に反応し、かつ簡単には失われないようにできています。
味覚障害の原因は、味を感じる部分の障害(舌そのものの病気や味受容体の異常)と、味を伝える神経や脳の障害(顔面神経麻痺(まひ)や脳血管障害)に分けることができます。
舌そのものの病気としては、舌炎や貧血による影響、口腔(こうくう)乾燥、外傷(ブラシでこすりすぎ)などがあり、味受容体の異常としては、亜鉛欠乏や薬剤(降圧剤、抗不安剤、睡眠剤、抗がん剤など)の影響、風邪をひいた後の影響などがあり、原因不明の場合もあります。
その他に味覚障害を来す可能性としては、肝臓障害、腎臓障害、糖尿病、消化器疾患などの全身疾患や、うつ病の影響が挙げられます。また、風味障害といって、風邪などにより嗅覚に異常が起きた結果、味覚機能に異常がなくても味覚障害があるように感じる病態があります。
治療方法は舌そのものの異常や神経の障害、全身疾患があればそれに対する治療が必要であり、その治療効果の程度により味覚障害の改善が期待できます。味受容体の異常が疑われる場合は亜鉛製剤の内服を行います。
一般的に亜鉛製剤の内服治療の有効率は約70%といわれています。亜鉛内服治療は、内服を始めて3カ月後くらいからやっと効果が出てくることが多く、6カ月以上の内服で改善しない場合や発症後1年以上経過してから受診した場合は、治療による味覚改善が困難な場合が多いようです。
当院を受診していただき、可能であれば味覚機能と嗅覚機能も検査する必要があります。味受容体の異常と診断されれば、既に1年近く時間が経過していても、まずは亜鉛製剤の内服治療を行うことが望ましいと考えます。